大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(う)1022号 判決

被告人 木村瑛 外二名

〔抄 録〕

論旨に縷述するところは、要するに、原判決は、判示第三の(一)の賭博開張図利の犯行を被告人木村瑛の単独犯行と認定したが、本件の賭博場は被告人木村のほか、被告人鎌仲光雄、中村恵一及び目代秀雄の三名が共同して開張したものであるから、原判決には影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、破棄を免れないというのである。

よつて、記録を調査して按ずるに、論旨に挙げる証拠のうちには、原判示第三の(一)の犯行は被告人木村のほか、被告人鎌仲、中村、目代の共同犯行であるかの如く窺わせる供述記載部分がないこともない。しかし、原判決挙示の関係証拠(但し、原判決に被告人木村の検察官に対する昭和四一年一二月「四日付」供述調書とあるのは、「一四日付」の誤記と認める)及び被告人ら三名の司法警察員に対する各供述調書、原審公判における各供述を仔細に検討して考察すると、論旨に本件が共同犯行であるとして挙げる証拠中の各供述記載部分はにわかに措信し難く、また、所論が共同犯行の根拠となるべき事実として挙げているものは必ずしも本件が共同犯行であることを認定するに足るものともいえない。即ち、(一)所論は本件賭博場開張についは被告人木村が被告人鎌仲ら三名にこれを相談し、被告人鎌仲のとりなしで開張することに相談が纒つたものであると言い、被告人木村は、先に被告人鎌仲に誘われ目代と共に行つた西川碩開張の賭博場で、手持の約五万円をとられたほか、二〇万円の借りができ、目代も手持金をとられたほか二五万円の借りができ、被告人木村は、その後自己の借りを完済し、目代にも補助してやつて借りの一部を返済させたが、その際西川から被告人木村が賭博場を開張するときには手伝つてやるといわれたので、右の損害を取戻すための賭博場を開張しようと考え、本件の約一週間前、都内池袋の喫茶店「ふじき」で、被告人鎌仲、中村、目代と会つた際、同人らに対し右のことを話して相談したところ、同人らもこれに賛成し、席上被告人鎌仲が開張するについて必要な事柄を取りなして相談が纒つたことは所論のとおりである。しかし、被告人鎌仲の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、中村恵一の検察官に対する供述調書謄本によると、同人らは被告人木村が開張するというのでこれに賛成し、その手伝いをすることを約束して、手伝つた旨供述し、目代秀雄の検察官に対する供述調書謄本によると、同人は被告人鎌仲は共同開張者と思うと供述するのみであつて、被告人木村が相談を持ちかけるに至つた動機の点をも考慮に入れると、たやすく共同開張の謀議が成立したものとは断じ難い。(二)所論は右四名の間には当初寺銭を分配する約束ができていたのであつて、たゞこれを目代の西川に対する前記の借金に入れたため、その余の三名は寺銭の分配を辞退したものであると言い、被告人木村が前記の相談の際被告人鎌仲らに対し利益を分配する旨言明し、また、回銭や寺銭から目代の前記借金を支払い利益が僅少となつたので、博賭終了後他の者が利益の分配を受けることを辞退したことは所論のとおりである。しかし、被告人鎌仲、中村、目代の前記各供述調書のほか、被告人木村の検察官に対する供述調書によると、被告人木村が利益を分配するというのは、被告人鎌仲らの手伝い賃として分配する趣旨であつたと解せられる余地があり、たやすく共同開張者であるから分配するという趣旨であつたとは断じ難い。(三)所論の中村が回銭を出しているとの点は、被告人木村には回銭の準備がなかつたので、前記相談の際中村が五〇万円を準備することを約束し、賭博の始まる直前同人が被告人木村に二五万円を渡したことは所論のとおりである。しかし、前記の被告人木村、中村の各供述調書によると、右の金は中村が被告人木村に貸与したものであることが窺われ、たやすく中村が開張者として準備したものとは解されない。(四)所論は本件犯行の日取りは被告人鎌仲が被告人木村に連絡をとつて決定し、また、花札等を買入れ、寺袋の用意を命じ、初め賭客に挨拶をしたうえ中盆役をした点を挙げているが、本件犯行の日取りが決つた経過は、被告人鎌仲は賭客を誘い、中盆役を一人連れて行くこととなつていたので、それらの者の都合を聞いたうえ、被告人木村に連絡し、右両名が相談して日取りを決定したことが認められる。そして、花札等は開張者自ら手を下してこれを準備するものとは限らないし、中盆役も同様開張者がこれをするものとは限らないのであつて、寧ろ他の者にさせる場合が多く、被告人鎌仲が初め中盆をするに先立つて賭客にした挨拶というのは、勝負を始めることやその方法を述べたものに過ぎないことが認められる。従つてこれらの事実は本件が被告人鎌中らとの共同犯行であると認定するに足る根拠とはなし難い。(五)所論の被告人木村のほか、被告人鎌仲らも賭客を集めたとの点は、前同様、客集めは開張者が自らするものとは限らないから、これをもつて本件を共同犯行と認定する根拠とするに足らない。(六)所論の被告人鎌仲が戻り銭等の取扱いを指示していたとの点は、被告人木村、同鎌仲の検察官に対する各供述調書によると、被告人鎌仲は、被告人木村が開張に不馴れであつたので、同被告人を助けて戻り銭等の取扱について注意や指示をしていたことが窺われる。(七)その他所論は被告人鎌仲が的屋姉ケ崎一家において被告人木村の先輩に当ること、本件犯行の直後被告人木村、同鎌仲、中村、目代の四名その他の者が料理店で飲食を共にしたこと等を挙げているが、それらはいずれも本件を共同犯行と認定するに足るものではない。しかも、本件の捜査当時、被告人木村は、警察官に対して本件の被告人鎌仲との、ないし被告人鎌仲、中村、目代との共同犯行であるかの如き供述をしていたが、検察官に対してはこれを改め被告人木村の単独犯行である旨供述し、原審公判においても本件を被告人木村独りの犯行であるとする公訴事実を認めていたのであり、被告人鎌仲も警察官、検察官に対し、また中村も検察官に対しいずれも被告人木村が開張するというから手伝うこととしたもので、被告人木村の単独開張である旨供述していることを考えると、本件に被告人木村の単独犯行であつて、被告人鎌仲らは手伝いをしたものと認めるのが相当である。なお所論は被告人木村の検察官に対する昭和四一年一二月二三日付供述調書は唐突に本件を同被告人の単独犯行である旨供述し、また被告人鎌仲の司法警察員及び検察官に対する各供述調書は自己擁護に終始し、変転していて措信できないというが、被告人木村は検察官に対する同月一四日付供述調書において既に右同旨の供述をしており、また被告人鎌仲は警察官に対し当初自己擁護に過ぎると窺われる供述をしていたが、その後における供述は一貫していて、被告人木村、中村の検察官に対する各供述調書に照らすと、あながち自己擁護のため虚偽の供述をしているとも認められず、いずれも前認定に関する限り措信するに足るものと認められる。してみると、原判決には所論のような事実誤認のかどはない。論旨は理由がない。

(松本 真野 石渡)

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